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サバンナで迷子になった私

夕暮れは車を追いかけるようにそこまで迫ってきた。車は車道から外れ、近道をすることにした。これが間違った判断だった。
ドライバーと他の仲間達はサバンナを横切った方が近道、デコボコのアスファルトが剥がれ陥没した道路を行くより早いと思ったのだろう。
急がば回れということわざは彼らの教訓にはないようであった。
カレンジン族に尋ねた。「確かに彼らは道を知ってるの?来た道を引き返した方が安全じゃない?」
「日本には急がば回れということわざがあるの、止めた方が良いんじゃない」自分達ケニヤ人にはサバンナは庭のような物、心配はなにもない、アクナマタ~タ!!と繰り返した。
この言葉にいつも不吉な予感を感じていた。
夕暮れは既に去っていった、動物の目だけが蛍のように行きかうサバンナ、すれ違った車は一台もない。
民家もあるはずがない。ヘッドライトにシマウマが現れた。ちょっと安心した。こんな時どんな動物でも会えたら生き物同士の安心感が伝わる。
勿論ライオンは別だが。
星は既に満天と輝き、車のライトだけが頼りだった。
帰り道となるはずだった車道の車の音もいつの間にか聞こえなくなった。もう私たちだけ、ドライバーは道を誤った。
時間だけ間違いなく時を刻んでいる。
ライトに薄暗い店が現れた、ここで道を聞いてみようとなった、店は開いていた、暗がりの中でファンタを彼らは買って飲んだが私は急にトイレに駆け込みたくなった。
勿論トイレはないのでブシュトイレである。
なるべく遠いところに行って済まそうと思ったら、マサイ族の家が数メートル先にありマサイ族の家族がこちらを見ている、彼らは非常に視力が良く、私の行動はすっかりお見通しだ。
更に進んで茂ったところを見つけて用を済ました。
安心したら早く戻らなきゃと、暗闇を闇雲に走ったら、マサイ族が赤い布を着て一列にこちらを見て立っていた。
ぶつかるまで気がつかなかった、目も口も見えない木のように立っているだけである。
「ギャー」と大声を出したら、それでも黙っていた、傍でドライバーとダイアン達がファンタを飲み終え暗がりに立っていた。
この闇の中で何でも見えてしまうマサイ族の視力は日本の視力表に無い値である。
常に遠くを凝視し野生の動物から身を守るためにもう既に生まれながらに備わっていた能力なのかもしれない。
マサイ族に「ソーバー」といって挨拶したら、「ソ~バー」と帰ってきた。良かったいつものマサイ族で。
我に帰って車に乗るとドライバーは今度は大丈夫といわんばかりに速度を上げていった。
アーこれで帰れるぞ、皆どうしてるかな?ゴンガゴンガ(私の大好きなウェイターのニックネーム)、それにフェース(私と仲良しのウェイトレス)、ガードマン、皆心配してるだろうな?携帯電話は勿論圏外でつながらない。
何と遠くに明かりが見えたではないか、あれは以前宿泊した「ンパタロッジ」の明かりだ、皆で喜んだもう大丈夫もうすぐ何時もの光景が目に入る、我家が見えたような安堵感で一気に肩の力が抜けた。
人間界に戻れた、ライオンの生贄にならずに済んだ。
しかしあの「ンパタロッジ」の明かりが突然視界から消えた、山の斜面が角度を変えた。
つまりこの車は目的地から離れて走り始めている。
又暗闇に続くサバンナは私たちを飲み込んだようだ、
「もう帰してはくれないのかサバンナの奴」と暗闇を睨んだ。

まるで円の中に迷い込んだように抜け出せない、ぐるぐる同じ道を回っているのか?サバンナの夜は真っ暗である。
動物さえも何処かに消えてしまった。
あれ!家があるマサイ族の集落だ。ドライバーが車から出て玄関らしきところをノックしている。長老が出てきて指を来た方向にさした。
行き過ぎたらしいまた戻るのか、今度は大丈夫だろう、いやまだ油断は出来ない。アンナ会話で情報は十分に得たのだろうか。角にポストがあるわけでもないし、番地が書いてあるわけでもないし、いったいどうやって戻るのか疑問が疑問を呼んだ、私だけなのか複雑に人生を考えているのは?また肩に力が入った。
もう車の中の会話は消え全員でドライバーを見守る、ただアクナマタ~タ(心配ないよ)の呪文が何度か聞こえた。
私の大嫌いな言葉、もう言うな!!!と頭の2段のドーナッツが爆発するほど心の中で叫んでやった。
この言葉は彼らの口癖で何の根拠も意味も無い無責任な言葉であることが良く分かってきた。
まだ着かない、アンナ指差し会話で分かるわけがない。私のバッグにもスワヒリ語指差し会話の本があった、一度も使われずにやはり役に立たなかった。

ぼんやりと盆提灯のような火が暗闇に浮かんだ。
マサイ族の集落だ、牛糞の家が見えた、かなりしっかりした部落のようだ、ここなら長老もしっかりしているだろう、長老が途中まで車に乗って誘導してくれるといってくれた。
頼もしい長老だ、右手にやはり杖を持っていた。長い体を折りたたむようにして車に入ってくれた。
まっすぐ立てた杖とマサイの衣装がジャクソンの姿と重なった。
もう大丈夫と私の中の不安はあっという間に消えた。ここまで来たら誘導なしでも帰れるという所まで来てくれた。
マサイ族は車を降りて暗闇に戻っていった。日本なら住所を聞いて後で礼状を送るのだけれど、有難うとシンプルに我々は去っていった。
マサイ族もかなりの距離を戻らなければならないはず。
やっと長い暗闇から脱出した、明かりが見えてきたのだ。
見慣れた景色があった。門番達の小屋が見えてきた。
いつもの門番がすぐに現れ、丸太のゲートを開けてくれた。長いサファリゲームからやっと帰ってきたかのように、笑顔の可愛いウェイトレスのフェースが迎えてくれた。
ウェイターのゴンガゴンガも心配そうな顔で走り寄ってきた。
暖かい食事が出され、いつものようにカバの見える庭のテーブルに座った。いつものようにカバは目と鼻だけを出して寝てるかのようである。
アクナマタータといわんばかりに。
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